「きっとうまくいきます」と業界の大先輩からのメッセージです。その言葉を聞きながら、ある年の年末にお会いしたお客様のことを思い出しました。
1.きっとうまくいきますよ
金融機関からご紹介して頂いたオーナー社長のご希望で、入院中の奥様との面談することになりました。この時に説明した内容は究極的に対応が難しいものでした。そして、病室をでるときに色々な思いをこめて「きっとうまくいきますよ」と奥様に伝えました。
「万が一のことが起こったら」というリスクを想定して対応策を整える必要性は語られても、実際に対応策をとっているかというと何も備えていないことはよくあります。正確に言えは、対策をとっていても不十分なことがおおいのです。たとえば、日本人の生命保険の世帯加入率は約9割という統計データがあります。企業オーナーであれば個人で入らずとも、会社名義でお付き合いのある方が多いはずです。
「自分に万が一のことがあったときのために」ということを想定して保険に加入するはずですが、保険金でいくら出るかに関心はあっても、資産全体のバランスを考えて保険に加入している人は少ないのではないでしょうか。
もう一つの盲点になることがあります。オーナー社長の配偶者です。冒頭に紹介したオーナー社長夫妻にはお子様がおらず、奥様自身が自社株式などの資産を保有していたのです。
オーナー社長とすれば以前から金融機関の担当者に資産承継の提案を受けていました。しかし、自分の健康状態もよかったため先送りにしていたところ、奥様が先に体調を崩して「万が一の事態」に備える必要が出てきてしまったということです。
お分かりのとおり、この状態で出来ることは限られますし、相当なストレスが加わります。病と向き合う奥様との面談を終えて病室を出る際に、「きっとうまくいきますよ」と伝えたのでした。
2.自分を励ます言葉
「大丈夫、心配するな、すべてうまくいく」は、一休さんの言葉ではないようですが、追い込まれた状況になったときに自分を励ます言葉がでもあります。結局、上手くいかないことも多いので、さらなる励ましが必要になるのですが。
「心配するな。全部上手くいく」という言葉を「キングダム」という歴史漫画にみつけました。史実をベースに脚色を加えて構成されているので、面白く読み進めます。この中の桓騎(かんき)という将軍のセリフです。
この桓騎という人は実在の人物です。作中ではアウトローな人物として描かれていますが、興味深いのは自軍を「一家」単位で管理している点です。血は繋がらないが、仲間を一つの家として管理しています。
ここに組織の本質があります。上記の漫画は中国を舞台としていますが、作者は日本人ですから日本の価値観が現れます。日本の組織は「一家」という共同体の観念が中心にあるのです。
株式会社は資本と経営を分離して、利益を追求するための道具というのがアングロサクソンの考え方です。しかし、多くの日本の会社は違います。一家という共同体なのです。この共同体を背負っているオーナー社長の責任は大きいものです。
家族を養い、会社を背負うオーナー社長こそ、万が一に備えて、資産の承継と経営の承継に備えておくことが必要です。人生においては何があるかは分からないからです。そして、人は必ず相続が発生します。つまり、オーナー社長に相続というリスクが発生する確率は100%なのです。
3.オーナー社長に必要な備え
同族会社(ファミリービジネス)の中心となる関係者は創業者一族、経営者、株主です。多くは、この3つをオーナー社長が兼ねています。それだけに、オーナー社長に不測の事態が起きると大変な騒動になります。
オーナー社長に集中していたパワーが、不測の事態や相続によって一気に拡散すると、会社の中の求心力が失われる結果、極めて不安定な状態になります。世代交代のタイミングで会社がピンチになるのは必然なのです。
そのために経営の承継と資産の承継の2つを同時に進めておくことが必要となります。かつては親族内承継ということで子供に引き継ぐのが当たり前でしたが、いまでは状況が変っています。第三者にM&Aすることもあれば、会社の関係者が経営をして一族が株式を保有するケースはありえます。
保険好きな日本人だけに、万が一について考えるきっかけはあるのです。その時に、保険だけを考えるのでは不足します。元気な時にやるべきこと、サポートが必要な時と、相続時に備えるべきことを想定する必要があるのです。
事業の承継とは「経営の承継」と「資産の承継」の2つの承継があります。どちらも一気に、一度にというわけにはいきません。じっくりと腰をすえて取り組む必要があるのです。そうすれば、きっとうまくいきます。
【まとめ】
事業の承継とは、「経営の承継」と「資産の承継」の2つの側面があります。経営の承継は会社にかんすることであり、資産の承継は家族に関することです。この2つの仕組みを並行的に考える必要があるのです。