今回も「patagonia社(以下、パタゴニア社)」の事業承継についてです。
「信託」とは、オーナー社長の思いを実現する仕組みと書きました。
パタゴニア社の事業承継では、創業者であるイヴォン・シュイナード氏の思いを実現する仕組みとして「信託」が使われています。
同社の会社の目的は、『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』です。
同社おホームページにイヴォン・シュイナード氏の思いが2つ記載されています。
パタゴニア社のこの価値観を維持すること。
より多くの資金を環境危機と闘うために使うこと。
この2つの目的を達成するために、「信託」と「非営利団体への寄付」の2つの仕組みが必要でした。
「信託」は、会社の価値観を維持するための仕組みです。
「非営利団体への寄付」は、より多くの資金を投入する仕組みです。
株式の権利と仕組み
株主の持つ権利のうち、主なものは次の2つです
①株主総会に参加する権利(議決権)
②配当をもらう権利(配当権)
「信託(Patagonia Purpose Trust)」は、議決権株式を保有しています。
「信託」が株主総会で信託目的に沿って議決権を行使する限り、会社の価値観を実現する議案を承認することになります。
「非営利団体(Holdfast Collective)」は、無議決権株式を保有しますので、配当を貰うだけです。
個人で受取る場合は税金がかかりますが、非課税法人が受取る場合は、税金がかかりません。
創業者ファミリーが税金を徴収された後で寄付をするよりも、税金のかからない非営利法人が寄付をする方が、より多くの金額を環境保護団体に寄付をすることができます。
非上場の同族会社(ファミリービジネス)の特徴
企業規模が大きいとはいえ、パタゴニア社も非上場の同族会社(ファミリービジネス)です。イヴォン・シュイナード氏が創業して経営をしていた時点では、自らが経営者であり、オーナー(株式所有者)です。
通常、同族会社は、世代を重ねるごとに創業ファミリーの中に自社株式が分散します。
ファミリーの中でも会社への関与の有無、持株数の多少など、様々な関係性が生じるため、マネジメントが難しくなっていきます。
一般的に、同族会社(ファミリービジネス)の強みは、長期的視点に立った経営活動、経営理念(創業精神)の浸透、意思決定の早さと独立性などです。
まさに、パタゴニア社の強みと一致します。
反対に、同族会社(ファミリービジネス)の弱みは、ガバナンスの欠如、親族に対する甘さ、経営承継の失敗、などです。
パタゴニア社の事業承継の仕組みは、同族会社の強みを活かし、弱みを補強するために「信託」を活用したと言えるのではないでしょうか。
本稿のまとめ
重要な点は、複数の手段、方法を比較検討した上で、結論を出している点です。
「信託」が常にベストとは限りません。
しかし、相談相手に「信託」というメニューがなければ利用することが出来ません。
色々なスキームを公正、中立な立場から提案できるアドバイザーが必要ではないでしょうか?
次回は、このパタゴニア社の事業承継スキームが画期的なものかもしれない、という話を次回させていただきます。