業歴の古い同族会社(ファミリービジネス)ほど、親族が様々な形で会社と関係することが多いものです。後継者の目線から見て、「社長(父親)と話すとついつい感情的になって話にならない。だけれども、親戚のおじさんとは話しやすい。」という場合はよくあります。
父と息子の関係が今ひとつだけど、息子は親戚のおじさんとは仲が良い。映画で言いますと「寅さん」の主人公である車寅次郎と、義弟の諏訪博、甥の諏訪満男との関係です。満男は父親に反発しますが、伯父の寅さんとは仲良しです。
逆に、父親と息子が親密な場合もあります。そこには一つの親族の基本構造があります。その構造は、「父と息子」かつ「母型の伯叔父と甥」の場合は、次のようになります。
父と息子が親密の場合、甥と母方のおじさんは疎遠である。甥と母方のおじさんは親密の場合、父と息子は疎遠である。
満男は、母さくらの兄である寅さんと親密だが、父親の博とは今ひとつ上手く行かない、というのは人類の構造的なものです。当たり前のことなので、問題ではありません。この3角関係は息子にとって必要なものです。
しかし、今の日本ではこのおじさん的なポジションの人が少なくなっています。核家族化、少子化、大都市圏への人口集中など、家族構成が大きく変化しています。さらに、コロナ禍で正月や法事などの親族間のコミュニケーションも減少傾向です。
家族の仲がギクシャクしても、親戚のおじさんが介入することにより、事態の転換が図れます。介入が上手くいくにせよ、上手くいかないにしても、家族の中に違う風が吹き込まれるので、現在の事態が膠着しません。
ところが、親戚のおじさんがいないと家族の状態は膠着してしまいます。親子間のコミュニケーションが減れば減るほど、事態は膠着していきます。何かのきっかけがなければ、家族の中の状態の改善は図れません。
オーナー社長と後継者の息子との関係性は、会社経営と親族関係の両面に影響します。息子が事業の承継者で、関係性がよくない場合の対応策としては、親戚のおじさん的な役割を果たせる人がいるのが理想ということになります。
このポジションになる人は、親族のご意見番、社長の右腕となる人材、共同経営者、番頭さん、メインバンク、顧問税理士、経営コンサルタントなどでしょうか。ポイントは、経営(ビジネス)と家族(ファミリー)の両面での対応が必要だということです。
社長が元気な時に、ビジネスとファミリーの双方に対策を講じておくと、事故、病気、相続が発生しても基本シナリオがあるので大事には至りません。問題は何の対応策も方針もないままに、相続が発生した場合です。
ビジネス面にしろ、ファミリー面にしろ、オーナー社長が元気だからこそ、抑え込まれていた問題が、相続を機に一気に噴出します。近年でも、外食の大戸屋さんの実質創業者である三森久実氏が病気により急逝した後に、大きなトラブルが生じています。
急逝した三森久実氏の配偶者と息子が、久実氏のいとこにあたる当時の社長との間に、息子の処遇等をめぐってトラブルが生じました。結果として、外食大手のコロワイドに吸収される事態となっています。
結論として、オーナー社長が後継者との関係性に関わらず、ビジネス(経営)と家族・親族(ファミリー)の両面に配慮した対応策が必要だということです。そしてその対応策は、関係者の間で共有されていないと意味がありません。
特に、オーナー社長と後継者の関係性が今ひとつの場合、親戚のおじさん的ポジションの人がいた方が良いということです。できれば、会社経営のことに加えて、家族や親族状況も洞察できる人材です。
話の流れでファミリーの中の風通しを良くする立場の存在として、「親戚のおじさん」と表現しましたが、もちろん老若男女を問いません。
同族会社(ファミリービジネス)が安定した企業経営をするためには、ビジネスとファミリーの双方に配慮することが必要であり、それをサポートする存在がいた方が良いということになります。