「贈与税が変わるみたいだね。事業承継税制? 分かりづらいね。様子見かな。」と、旧知のK社長です。
今年は相続税・贈与税が改正される予定です。しかし、税制改正より前に、オーナー社長に気をつけていただきたいことがあります。それは、既に施行されている事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予・免除)の使い方です。
1.何もしなくて良いか
自社株式を後継者に贈与や相続しても税金がかからない、と聞くと魅力的な話です。
しかし、利用は進んでいません。東京商工会議所の調査によると、利用しない理由として多いのは「時限措置で今後どうなるか不明」とか、「納税猶予にならない可能性がある」です。
国が公認した制度ですから、適用要件を満たすことができれば、税金が猶予されます。その後も適用要件を満たせば、税金が免除されます。確かに、免除にいたる道のりは、長く険しいかも知れません。
ただし、経営者に子供がいるとすれば、会社を継ごうが、継ぐまいが、経営がそれなりである限り、子供に財産を移すには税金がかかります。その意味では、今回の贈与税の改正は大きな意味を持っています。
オーナー社長にしてみれば、「子供が会社を継ぐか分からない」、「今は子供に会社を引き継ぐタイミングではない」、「会社が数年後どうなっているか分からない」など、躊躇するのはもっともです。
そうかといって、社長に万が一のことがあれば相続税の問題は生じます。納税資金が不足するという事態が発生!となると大変ですから。
ここで第一の結論は、顧問の税理士に確認しておく、です。贈与税・相続税が猶予される可能性があったのに知らなかった、というのは勿体ないです。経営者の家族と顧問税理士の双方にとって、不幸な状況になってしまいます。
対応策としては、子供が後継者になろうが、なるまいが、事業承継税制の適用に必要な「特例承継計画」をとりあえず提出しておく、ということになります。「特例承継計画」を出しても、事業承継税制の活用は強制されないからです。
2.もっと大切なこと
経営者としてやるべきことは、いざというときの備えです。よく言われることですが、「会社の経営承継」と「家族の資産承継」の2つに対する対応策は必須です。
事業承継税制はいずれの承継にも大きく影響します。ただ、必ずしも適用することをお勧めするものではありません。いざ、というときの選択肢として持っておくということです。
一方で、事業承継税制については、情報が不足している可能性があります。正直なところ、金融機関や会計事務所にとって、事業承継税制そのものにビジネス的なメリットは少ないので、積極的に情報を提供していないかもしれません。
しかし、大事なのは事業承継税制だけではありません。この制度は関連法の中の一つに過ぎないのです。事業承継税制以外でも使える制度があることが、専門家の間でも知られていないのです。
これらの道具を使いこなすのは、一人の専門家で対応するのは難しいかもしれません。税務、財務、法務をトータルでコーディネートする力量が求められるからです。経営承継と資産承継をトータルで考えて、未来の計画を立てるのは大変です。
特例承継計画を書くのにそれほど負担はありません。納税猶予の権利を確保するのと同時に、未来の計画をたてるきっかけになれば良いのです。この時に求められるアドバイザーは専門家ではなく、経営承継と資産承継を総合的に相談できるコーディネーターです。
余談ですが、自社株式について事業承継税制を適用した場合、自社株式について信託という仕組みは使えません。もちろん、特例承継計画を提出した後でも、信託を活用することはできます。しかし、信託を活用すると事業承継税制は使うことができなくなる、ということです。
3.まとめ
経営が順調で子供がいる場合、事業承継税制について、顧問税理士とコミュニケーションをとっておくことをお勧めします。質問に対する回答で、資産税に関するレベルが分かるものです。
必要であれば、相続税・贈与税の納税猶予というオプションを得るために、特例承継計画を令和6年の3月までに提出することをお勧めします。経営承継と資産承継のプランが見えて来れば、他にも活用できる手段が見つかるかもしれません。
近年では、事業承継や経営を支えるための法律や補助金制度が整えられてきています。これらは知らないと使えません。経営者自身が探しに行くのではなく、周りにどんな専門家やコーディネーターがいるかが明暗を分けます。
目的があって、手段があります。
目的地を定めて、どのように行くかは、ナビゲーションが便利です。
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