同族会社(ファミリービジネス)は、創業してから時が経つほど、会社と親族との関係が複雑になる傾向があります。
この点でも、「patagonia(以下、パタゴニア社)」の対応は、参考になります。
1.創業ファミリーと会社の関係
パタゴニア社の創業家ファミリーが持つ株式は、信託と非営利法人に譲渡されました。
今後、創業家ファミリーは、信託と非営利法人を通じて、経営に影響を与えます。
また、一部のファミリーは、取締役や従業員として会社と関与することになります。
この点について、パタゴニア社のホームページでは、次のように説明しています。
第一に、信託に対して指針を示して、信託のリーダーチームのメンバーの選出と、信託の監督を行うこと。
第二に、非営利法人の慈善活動も指揮すること。パタゴニア社の場合、「信託」が「創業家ファミリー」と「会社」の間の調整役になり、両者の向かう方向性の確認が行われることになります。
株式オーナーでなくなった後も、創業者一族がパタゴニア社に継続的に関与する仕組みです。
創業家ファミリーが「信託」に対して示す指針は、パタゴニア社の事業運営に影響を与えます。ただ、パタゴニア社の創業家ファミリーの中で、どのようなコミュニケーションをとり、どのようなガバナンスを行うのかについて、特に説明はありません。
この形ですとパタゴニア社に対して創業家ファミリーの影響力を保てますし、相続税の影響もありません。
創業家ファミリーに相続が発生することにより、ファミリーのメンバーは変わっていきますが、株式の保有による相続税の納税は発生しないのです。
2.日本の状況
かつて日本には「家制度」が健在でした。
明治時代に、江戸時代の武士階級の家族制度をもとに作られたのが、旧民法における「家制度」です。戸主に親族の統率をする権限を与えていたものです。
今でもご年配の方ですと、出生時の戸籍などに、戸主の記載があるものがあります。
しかし、家長に権限を与え、家督を嫡子が承継するという「家制度」も、戦後の民法改正で廃止されます。
現在の民法の考え方は、相続人の均等相続が原則です。
家族の在り方も、大家族ではなく、核家族世帯や単身世帯が主流になりました。
これらの社会変化が、日本人の「家」に対する意識も変えています。
昭和の時代には当たり前だったお正月に親戚周りをするということも、昨今のコロナ禍により、さらに減少したのではないでしょうか。
これらのさまざまな要因が、日本の同族会社(ファミリービジネス)の創業一族の結束力を弱体化させています。
大塚家具や大戸屋などのお家騒動の原因の一つは、ファミリーガバナンスにあると言われています。
3.組織としての家族
同族会社(ファミリービジネス)でトラブルが生じるのは、事業承継の時と言われます。
その時に必要な仕組みは2つあります。
会社という組織を統制する仕組みと、創業家ファミリーという組織を統制する仕組みです。
「組織」として捉えた場合、「コミュニケーション」、「貢献意欲」、「共通の目標」の3つの要素を満たす必要があります(バーナード)。
会社としての理念が明確なパタゴニア社の場合、これら3つの要素を創業家ファミリー間でも十分に満たしているように思います。
4.結論
同族会社(ファミリービジネス)の強みを活かし、弱み(事業承継時に混乱が起きやすい)を減らすため、創業家ファミリーをマネジメントする工夫が必要です。
長寿企業が世界一多い日本には、家訓や隠居、法事などの親族がコミュニケーションをとる機会など様々な知恵があります。
日本に伝えられてきた知恵の活用を、検討してみてはいかがでしょうか。