「信託ってよく聞く言葉だけど、分かったようで、分からない感じがするね。」
経営者の方に限らず、よく聞く話です。
信託という言葉は、信託銀行、投資信託、家族信託などはよく聞きますし、日本国憲法の前文にも、「〜そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、〜」と書かれています。
信託の種類や分類については、色々な考え方がありますが、大きくは次の2つに分類できます。
一つ目として、資産の管理や承継のためのものです。
もう一つには、資産の運用や投資のためのものです。
信託の源流は、14世紀頃のイギリスのユースといわれています。
これは、財産の管理と承継に使われていました。
例えば、十字軍として出征する騎士や兵士が、家族のために自分の領地を信頼する他者に任せおき、自分帰還するまで、または自分が戦死した場合にその後継者に財産を渡すために使われたようです。
その後、次第にビジネスの用途にも盛んに用いられるようになります。
特にアメリカでは資産運用や投資のための手段として、信託が使われるようになります。
今日では、わが国の上場企業の株主は信託銀行などの信託を使った資産管理のための会社が上位を独占しています。
実務的には、投資信託などの運用目的だけでなく、上場企業の創業者一族の方々が、有価証券の管理などのある種の目的をもって信託を活用しているケースもあります。
歴史的な経緯をみますと、信託は土地などの財産を承継するための仕組みとして始まり、資本主義の発展に伴い有価証券の管理・運用など、ビジネスの分野にも積極的に活用されるようになったということです。
オーナー経営者の場合、自分の資産の中で自社株式が中心的な位置づけになります。
会社経営とは、自分の資産を自社株式で運用していることに他なりません。
業績が良くなれば資産価値は増えますし、悪くなれば資産価値は減ります。
自社株式の価値をどのように金銭にかえるかは大きなテーマになります。
一方で、この自社株式をどう管理し、どのように承継するのかという課題もあります。
この資産管理、承継という課題には、信託が有効な場合があります。
例えば、自分が元気なら自分で経営するが、自分が第一線で働けなくなった場合に備えて、会社を託す人を決めておき、自分に万が一のことがあれば、会社経営を事業の承継者に任せつつ、家族には自社株式を承継する、という流れを作ることも、設計次第では可能です。
ただし、実行の前には、法務、税務、財務的な観点からの検証が必要です。
信託は、贈与や譲渡と異なり、信託後もオーナー経営者のコントロールが可能です。
信託を通じて後継者候補とのコミュニケーションを取ることにより、後継者の育成をしつつ、資産の承継シナリオを考えていくことができることも、大きなメリットです。
信託は作っておしまいでなく、作ってからが本番になります。
原則として信託した目的を達成するまで、会社経営と同様に運営していく必要があります。
平均寿命や健康寿命が伸びている中で、オーナー経営者がいつまで現役でいるかは悩ましい問題です。
対応作の一つとして、信託という仕組みを活用することにより、引退するまでの時間を十分に使って、経営と財産の承継のシナリオを、検討しておくことを強くお勧めします。
最後に余談となります。
冒頭の憲法の前文についてですが、その後に「その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と続きます。
この言葉を信託の仕組みで言い換えてみますと、「その権威は委託者に由来し、その権力は受託者がこれを行使し、その福利は受益者がこれを享受する」、と言い換えることができます。
信託は、その信託を作った人の理念や目的を、世代を超えて受け継いでいく素敵な仕組みなのです。