経営上手な後継者とは

 「よく頑張ってくれているよ」とS社長。長女の配偶者(お婿さん)が会社の中で存在感を発揮しています。次の後継者として期待をしつつも、心情的には複雑なところもあるようでした。
 

1.経営上手な後継者
 
上場している企業で創業者一族が経営者や主要株主である会社、いわゆる同族企業は少なくありません。上場している同族企業の経営成績を後継者のタイプ別に比較した研究があります。
 
タイプ1:創業家一族と血縁関係にある後継者が経営する企業
タイプ2:創業家一族と血縁関係にない親族(婿)が経営する企業
タイプ3:サラリーマン経営者が経営する企業
 
この中で最も経営成績が良かったのはタイプ2でした。婿という他人ではないが、血は繋がっていないという距離感が経営に良い影響を与えるようです。S社長も上手くいきそうな気配があります。
 
中世の頃から、日本では「婿養子」という後継者選びの仕組みがあります。優秀な番頭さんを婿として迎え入れて商家を守っていく、という日本人の知恵は学問的にも裏付けられたとも言えそうです。
 
山崎豊子さんの「女系一族」は婿養子により代を繋いできた大阪の商家を題材にした小説です。近年でも役所広司さん主演でテレビドラマになりました。番頭さん(奥田瑛二)の演技が見ものです。
 
 
2.婿と婿養子
 
「サザエさん」に出てくる「マスオさん」は妻の実家に同居しているので「お婿さん」と言われますが、婿養子ではありません。「フグ田マスオ」が本名で、「磯野家」の籍には入っていないからです。
 
磯野波平さんに相続が起きても、「マスオさん」には相続権がありません。相続人は、フネさんとサザエ、カツオ、ワカメの四人です。「マスオさん」が磯野波平さんの婿養子になっていれば、相続権があります。
 
仮に、波平さんが会社を経営していたとします。波平さんにはカツオという後継者がいますので、今のところ「マスオさん」と養子縁組をする動機はありません。しかし、カツオの出来が悪い場合は、状況が変わってきます。
 
さらに、将来的に会社を託すのは「タラちゃん」しかいない、となったらどうでしょうか?波平さんは「タラちゃん」が困らないように、会社の経営や財産の配分を考慮する必要が出てきます。
 
会社の経営という側面と家族への資産の承継という両面を考慮するとなると、改めて世代交代というのは大変な作業だということが分かります。
 
 
3.ファミリービジネス
 
同族企業(ファミリービジネス)のオーナー経営者には、「経営者」「家族の長」「株主(オーナー)」の3つの顔があります。この最強の立場に対して、婿の立場は極めて弱い存在です。
 
前出の「女系一族」は婿養子だったオーナーの相続争いが描かれます。相続人である三人娘のうち、次女が婿養子を迎えていますが、婿殿は出戻りの惣領娘である長女には頭が上がらず、大番頭にも気を遣う姿に同情を禁じ得ません。
 
結論として、同族会社では経営をどのような形で引き継いでいくか、家族に財産をどのように引き継いでいくか、株主構成や運営をどのようにしていくか、という3つのプランが必要ということになります。
 
それぞれのプランがバラバラに存在するのでなく、体系的、整合的に考える必要があります。その時に用いる道具として信託があります。信託とは財産を管理する道具であり、財産を承継する道具でもあるからです。
 
例えは、オーナー社長が、経営は婿に任せるけれど、財産は娘に渡したいという思いを持った時、どのような手段があるでしょうか? 
答えは一つではなく、色々と考えられます。信託が常にベストの解とは限りません。家を建てるときに、建築主の要望に応じて図面を引き直す設計士のような作業になります。手作りのプラン設計が必要ということですね。
 
 
<まとめ>
 
経営上手な後継者に会社を任せるためには、手作りのプランが必要です。
プラン作りの準備と相談はできていますか?