逆風の状況を「嵐の中の福音」にするポイント

逆風の状況を「嵐の中の福音」にするポイント

 

「奇跡の57歳」という記事の見出しに目が留まりました。確かに、逆風の渦中にあった30年程前とあまりお変わりないようにみえます。月日を感じさせない女性経営者の姿に驚きを隠せません。
 
 
1.ブランドの重みと儚さ
 
君島一郎氏が築いた「KIMIJIMA」グループはオートクチュール界の高級ブランドとして一世を風靡しました。しかし、一郎氏の亡くなる少し前から状況は変わっていきます。
 
マスコミの注目を集めたのは複雑な家族関係です。本妻との間に生まれた長男と、内縁の妻との間に生まれた次男がいました。内縁の妻が一郎氏の実母と養子縁組をしているため、一郎氏の妹になります。
 
頭が混乱しそうな親族関係ですが、一郎氏の逝去後に、実母と内縁の妻が共に「KIMIJIMA」グループの取締役に就任しています。つまり、一郎氏の実母は、本妻ではなく、内縁の妻と近い関係のようです。
 
そもそも「お家騒動」の火種はこれだけで十分ですが、さらに後継者の次男にもスキャンダルが発覚します。その次男の配偶者になるのが君島(吉川)十和子さんでした。
 
相続に伴う混乱が予想されただけに、君島一郎氏は亡くなる4カ月前に遺言書を再作成します。紆余曲折がありながらも資産の承継は進みました。遺言書に基づき「KIMIJIMA」グループの後継者となったのは次男です。
 
しかし、多額の借入金に加えて、「KIMIJIMA」の風評被害により売上は激減したため、ブティックはすべて閉鎖に追い込まれます。果たして経営を引き継ぐことが良かったか、微妙な状況ではあります。
 
ひょっとすると、経営を引き継ぐべきか、否かの判断材料がなかったかもしれません。しかし、会社の退潮を止めるためには、何が必要だったのでしょうか?
 
経営面では、ブランドイメージの回復と資金手当てかもしれません。そもそも、会社をそのまま存続させるという選択肢を取らなかったほうが良かったかもしれません。
 
また、自筆証書遺言であったことからすると、専門家の関与が十分でなかった可能性があります。実質的に経営者としての跡目披露となる葬儀の場も混乱したようです。
 
親族関係が複雑な場合、円滑な事業承継というのは、実に難しい問題です。
 
 
2.ファミリー力
 
「KIMIJIMA」グループは無くなりましたが、長男サイドは「ユキコキミジマ」ブランドを立ち上げます。次男サイドは君島十和子さんのブランドを立ち上げて復活。ファミリーの力で新たなブランドを作り上げました。
 
長男家は母のブランド力を活かし、次男家は配偶者のブランド力を活かして見事に復活。結果からみれば、進むべき方向は分割統治という当たり前の結論でした。
 
ファミリーが失った信頼感を、別のファミリーのブランド力で補って、新たに作り上げていく点に同族企業としての人的資産、社会関係資産の強みを感じます。会社の価値が見えない資産で作られています。
 
「皆で力を合わせれば」というのは、言うは易く、行うは難しです。だからこそ、会社のガバナンスと同様に、ファミリーのガバナンスも必要になります。
 
同族企業ですと、会社に社外取締役などの第三者を入れるケースは多くはありません。必須だとは思いませんが、一つの方法であることは確かです。
 
ファミリーは企業のような理念、目的を持つ集団ではありません。しかも、長子相続や嫡子相続という考えた方は残っていても、強制力はありません。君島家でも嫡子の長男が事業の承継者にはなりませんでした。
 
家族間の意思疎通は希薄化し、価値観が多様化している時代ですから、同族企業の場合、親族間のコミュニケーションの重要性が高まっているのではないでしょうか。
 
ファミリーガバナンスという土台がしっかりしていないと、ビジネスに致命的な問題が生じる可能性があります。その一つが「お家騒動」でしょう。
 
つまり、ファミリーの中にマイナスの影響を与えるものがいると、その効果はファミリー全体に及びます。逆に、プラスの要素があれば、その効果はファミリーのみならず、ビジネスにも好影響を与えます。
 

<まとめ>
 
君島十和子さんは逆風の状況を「多くの人に顔と名前を覚えてもらうきっかけになった」と回想します。まさに、離婚秒読みといわれた嵐の状況が、人生の福音になりました。今も、仲のよいファミリーの状況をSNSにアップしています。
 
同族企業(ファミリービジネス)の長期的な繁栄の条件は、ビジネスとファミリーの両面が適切にマネジメントされることにあります。
 
特に、家族、家庭、家業に対する考え方、ルールなどのファミリー分野を意識した事業承継が求められているのだと思います。